居場所は失われやすい。だからこそ【地域共生社会を考えるvol.4】こども家庭庁インタビュー
長崎市にある、こころ未来高校で放課後に行われている校内居場所カフェ「ゆめカフェ」の取り組み。
学校はもちろん、こどもの支援をするNPO、住民の様々な困りごとを受け止め支援につなげる多機関型地域包括支援センターという福祉機関も関わっています。
「学校にカフェがあるってどういうこと?」
「学校と地域の団体がどうやって連携し、実施に至ったのか?」
「今どのような場になっているのか?」
カフェの立ち上げから現在の運営に関わっている皆様にインタビューしました。
では、そもそも居場所ってどういうもの?
こどもにどんな影響があるのでしょうか。
2023年4月、こども家庭庁が発足しました。「こどもまんなか社会」の実現に向けた政策のひとつとして「こどもの居場所づくり」が掲げられています。
現在、指針策定に向けて奮闘されているこども家庭庁の居場所づくり専門官の加賀さんに、国としての取り組みや、前職で居場所づくりに取り組んだ経験、こどもにとっての居場所の意義について、厚生労働省社会・援護局 地域福祉課の山本、宍倉でお話を伺いました。
「地域共生社会」なんて言われちゃうと、なんだか壮大で、雲をつかむ話のような気がします。でも実は私たちの周りには素敵な取り組みをしている方々がたくさんいて、その取り組みひとつひとつが重なっていくことが、「地域共生社会の実現」につながる一歩になるのでは?そんな発想で始めた、短期連載 “地域共生社会を考える” の第4回目です。
こどもの居場所ってどんなもの?
―こどもの居場所づくりに関して、国としてはどんな動きをしているのでしょうか?
2022年度にこどもの居場所づくりに関する調査研究を実施し、報告書をとりまとめました。それを基にして、2023年度は「こどもの居場所づくりに関する指針(仮称)」を策定することになっています。そのため、こどもの居場所部会を発足させて指針の中身を議論しているところです。その後、本指針を閣議決定し、こどもの居場所づくりについて強く推進する予定です。
―2022年の調査研究では、何を調査し、どんなことがわかりましたか?
調査研究では、今、取り組まれている居場所づくりにどのようなものがあるのかを実態を把握し、居場所づくりにあたって大切にされている視点や理念などをまとめました。
調査研究の中で「居場所」とは、物理的な”場所“はもちろんのこと、時間、人との関係性全てが居場所になりうるとしています。そのため、外遊びや体験活動、オンライン空間といったものも含んでいます。
また、居場所とは、他者が決めるものではなく、こども本人が決めるものであるということ。客観的に誰かが定めるのではなく、本人が居場所と思うかどうかが重要で、主観的に決めるものであるということが報告書にまとめられています。
―たしかに、ここが居場所ですよ、と他人が決めることはできないですね。では、「居場所をつくる」とはどういうことなのでしょうか?
「居場所」と「居場所づくり」は、主語が違います。居場所の主語は、こども・若者です。一方で、居場所づくりは、誰かの居場所になることを願い、他者がつくりだすものです。
例えば、卓球ができて、おやつが食べられて、勉強ができて、ソファでゆっくり漫画が読める、その上利用も無料であるという場を用意したとします。しかし、いざ開始してみると、こどもたちがあまり集まらないこともあります。好きなことが自由にできる環境を整備することよりも、自分の話を聞いてくれる人など、ソフト面の「人」を居場所だと感じるこどももいます。
どれだけ、誰かの居場所になることを願って居場所づくりを進めたとしても、本人が居場所と感じるかどうかというところにはギャップがあり、全員の居場所になることはなかなかありません。ギャップやジレンマを抱きながら、ひとりでも多くのこどもの居場所になることを願って、居場所づくりが行われているのが現場のリアルだと思っています。
それでも、居場所づくりにおいて大切にしたい視点を意識しながら取り組むことで、居場所になりやすい、ギャップが埋まりやすいのではと考えています。そのため調査研究結果として、居場所づくりにおいて大切にしたい「居たい」「行きたい」「やってみたい」という3つの視点でその要素を示しました。
例えば「誰かとつながれること」という要素と、「一人で居ても気にならないこと」という要素。一見すると矛盾しているように思えます。
友だちと一緒にではなく、一人で行きたい場所があったとします。学校では友だちというつながりをもっているからこそ、一人になることを求めたのかもしれません。それは、常に一人でいることを望んでいるのとイコールではなく複数の居場所をもって、使い分けができていることが良いのだと思います。
ですから、ひとつの居場所の中ですべての項目を満たさなければならないわけではなく、特性やニーズに応じてうまく使い分けて、本人の意思で選べることが重要だと考えています。
現場で感じた“居場所”の多様性
―居場所には多様な要素があり、様々な形で存在しうること。こども・若者ひとり一人が自分にとって居場所と思える場所を複数もっていることが重要だとわかりました。
加賀さんは、前職はNPO法人で居場所づくりにもかかわる仕事をされていましたね。どんな取組をされていたのか教えてください。
前職のNPO法人には、2012年に入職しました。東日本大震災の後の被災地の復興支援として、教育的な支援に携わりたいと思ったのがきっかけです。最初はボランティアとして活動していたのですが、教育支援をするには息の長い取組が必要だと思い、そのまま4年間活動しました。
活動内容としては、学習支援をメインに、被災地の中に、家でも学校でもない放課後集える場所をつくるプロジェクトを担当していました。
その後、経済的に困窮する世帯の支援として新しい事業を立ち上げるために都内へ移りましたが、根底には同じものがあるような気がしています。生まれ育つ環境が、時として災害で一変してしまう。あるいは、生まれながらにして育つ環境が困難である。どちらもこども本人ではどうにもできない、選べないことです。これらの外的な環境要因によって、自分の進路やチャレンジできる機会が大きく制限されるという意味で、共通したものがあるように思います。
そこで、今度は困窮世帯を主な対象として、被災地での取組と同じように、第三の居場所をつくるプロジェクトを担当し、退職まで従事していました。
―第三の居場所をつくるプロジェクトでは、具体的にどのような支援をしていたのですか?
目指していたのは、生まれ育つ環境にかかわらず、こどもたちがやりたいと思ったことに挑戦できる社会をつくっていくことです。
被災地に入ったときに見た1枚の写真が、脳裏に焼き付いています。仮設住宅の前のアスファルトの上で寝そべって計算ドリルをやっているこどもの写真です。その子には小さい兄弟がいて、家はうるさくて場所がない、だから外で宿題をやっていたのだそうです。
彼のようなこどもが放課後に安心して過ごし、学びたいことを思いのままに学べる場をつくりたいと思ってプロジェクトを始動させました。
ただその中で気付いたことは、確かに学びたい子は来るけれど、そうでもない子も来ている。みんながみんな学ぶという目的では来ていないということです。大人が考える目的でその場をつくっても、こどもが来る目的は違う。当たり前のことかもしれませんが、その当たり前をつきつけられました。
勉強はとても苦手なんだけど、なぜか毎回必ずオープンと同時に来る子がいました。一人自習室に来て座席に着いて、自習している風なんですが、全く進んでない。全然自習しないんですよ(笑)よく観察していると、スタッフに話しかけられると妙に楽しそうに話している。たぶん、早く来ることでスタッフとの会話できる時間を独り占めできる、その時間が欲しくて開館後すぐに来ているようだったんです。
“勉強”がきっかけで来るけれども、別の目的があって継続して通っている子が実はたくさんいたんですよね。表向きは勉強するために来ているかもしれないですが、それぞれ求めているものも目的も違う。複合的な要因が絡み合って居場所になっていく、ということがわかってきたのが被災地での経験です。
なので、東京で新たな場を立ち上げるときは、こどもたちそれぞれのニーズを満たせる場を作ろうと思って、一人で過ごせる場やスタッフと話せる場、みんなでわいわいボードゲームができる場など、と機能を多様化させたんです。
―では、「勉強のための場づくり」というわけではない?
もちろん、教えている立場としては勉強も好きになってほしいですけどね(笑)
ただ、その子の順位を何位上げたいとか、必ずあの大学に、とかは思っていません。そもそも勉強とは、できないこと・わからないことが、できる・わかるようになることが重要で、本来その過程に楽しみがある。できることが増えていく過程が、そのこどもの自己肯定感、自己有用感を高めることにつながるのではないかと思っています。学力が高くなることで可能性が広がることはもちろんありますが、何よりもその子の自己肯定感につながることが大事だと考えていました。
例えば、頑張ってもなかなか学力が上がらない子に対して、まずは結果を脇に置いておいて「よく来たね」とか「宿題に取り組もうとしているんだね、頑張っているね」など姿勢や学ぶプロセスなどに注目してコミュニケーションをとったりします。そのようなまなざしが向けられているということが、自分が気にかけられている、承認されているということにつながると思いますし、やってみようという気持ちにつながるんじゃないかなと思います。
―自己肯定感、自己有用感を高めることで、本人がやりたいことに踏み出す後押しをすることを大事にしていたのですね。
居場所があることで、こどもたちにどういった影響があると考えますか?
居場所に関する研究はまだあまりなくて。でも、重要だということは誰もが感じているというのが現状かと思います。その上で自分の経験をふまえてですが、何か限定的な効果ではなく、ありとあらゆるものに効いてくる土台のようなものだと感じています。自己肯定感・自己有用感の支え。幸せや自分自身をつくりあげる源泉になるもの、というイメージです。例えるなら、自分の中の幹を形成するようなもので、その先の枝や葉が育っていく気がします。正直まだわからないことが多く、抽象的な表現になってしまいますが…。
―何かをするときの活力につながっていく土台とか、自分を支える場所、というイメージをもちました。
居場所を複数持つこと・選べること
―加賀さんとは、校内居場所カフェの全国ネットワークの会合で出会いましたね。校内居場所カフェには、どんなことを期待していますか?
私も、校内居場所カフェと似たような発想で、学校の中にリビングルームをつくるというプロジェクトを立ち上げて運営していたことがあります。そのときは、中学校の中で実施していました。学校の先生方とは違う立場で場をつくるからこそ、学校に流れる時間や空気とはちょっと違った空間が創り出される取り組みだったと考えています。
学校の中に多様な選択肢を持てることは、その時の心身の状態に合わせて選べるという意味で、校内居場所カフェという存在は重要に思えます。また、すべての生徒たちに開かれている一方で、なんらかのSOSのサインを発しているこどもをキャッチできる場としても、とても意義があると思っています。
毎日通う学校の中に、カフェのような場もあるし、従来の学校の機能もある。物理的に同じ場にありながら、自分のニーズに合わせて選べる。思春期ならではの感情の揺れなどがあるこどもたちにとって、学校という空間に、複数の場を持つことができることは価値となります。もちろん、学校の外にあっても良いのですが、学校の中にあることによって、ふらっと行きやすい場となっているはずです。行ったり来たりできる居場所を持てることは、こどもの育ちにとって重要なのではないかと思います。
―こころ未来高校の取材の中で、カフェではスタッフが生徒に助けてもらうことがあるという話がありました。教室の中では教師、生徒という立場だけど、カフェでは、同じ学校内で大人とこどもの役割の転換がある、という面白いことが起こっていることも聞きました。地域も含めて居場所というものを考えていくと色々な可能性がありそうですね。やはり、選択肢が多いことが大事なように思います。
居場所って失われやすくて、もろい側面があると思うんです。居場所だと思っていたところがそうではなくなる可能性を多分に秘めている。例えば、学校で言うと、担任の先生が替わったとか、信頼していた人からのとある一言に傷つけられたとか、友人関係が壊れたとか、色んなことが起こります。拠り所としていたものが失われることがあるんです。
同時に、居場所を失って初めて、自分の居場所だったことを認識する側面があると思います。前職時代に関わっていたこどもが卒業する際に、「ここは自分の居場所だったんだと気付いたわ。つくってくれてありがとう。」と話してくれたことがありました。普段はそんな言葉聞いたことなかったのですが、この卒業のタイミング、つまりはここに通えなくなるタイミングで、居場所だと感じ、伝えてくれました。
日常的に利用し、接するものはなかなか居場所とは感じにくく、失ってはじめて自分の居場所だったことを知る、居場所という感覚はとらえにくい側面もあるのだと思います。居場所とは、失いやすくて、もろくて、とらえにくいもの、そんな性質をもっているように思っています。
ある方が例え話で言っていたのですが、船に穴が空いたとき、水を掻き出すことも重要だけれども無理だったら違う船に移るということも自分が沈まないためには必要なことである、と。ここがだめだったとしてもあっちに行ける、そうこうしているうちにあの場所も居場所として復活してくるかもしれない。「ここしかないんだ」と思うと、しんどくなりますよね。複数ある、選べることが重要だと思います。そういう意味で、毎日行っている学校のなかに校内居場所カフェという選択肢を増やすというのはこどもにとって良い仕組みだなと思っています。
校内居場所カフェ・こども家庭庁へのインタビューを終えて
「孤立する前に早く出会いたい」という、「ゆめカフェ」を始めた方々の思いが印象的でした。生活困窮者自立支援制度(以下、困窮制度) に携わる行政職員として、生活に困りごとを抱えている方にどのような支援を届けるかを日々考えていますが、こころ未来高校の取組は、本当に困った状況になる前に誰かとつながることを実現するものです。困窮制度としては、各地域に就職や住まい、家計管理などの相談窓口がありますが、いきなり窓口に行くことはハードルが高いと感じる方も、「ゆめカフェ」のような場があれば、より早く、より気軽に、困りごとを周りの人に話しやすいのではないかと思います。困窮制度においても子どもの学習・生活支援事業などを通じて居場所づくりに取り組んでおり、窓口に加え、多様な相談の入口を増やしていくことは重要だと考えているところです。
誰でも困った状況になるかもしれないからこそ、今困っている人だけに目を向けるのではなく、もっと広い視野を持ってあらゆる人を受け止める仕組みが求められていることを改めて実感した取材でした。(厚生労働省・山本)
昨年度まで厚生労働省において本企画に携わっていた関係で、「こどもの居場所づくり」の担当ではないですが、今回インタビューに同席させていただきました。
「こどもまんなか社会」の実現に向け、すべてのこどもが安全で安心して過ごせる「こどもの居場所づくり」は、非常に重要な施策だと考えています。加賀さんのインタビューの中にもありましたが、一言に「居場所」と言っても、こどもひとりひとり自分の「居場所」は異なり、それは私たちおとなも同じです。ひとつの「居場所」を持つこどももいれば、多くの「居場所」を持つこどももいて、そこには学校や家庭では教えられないさまざまな学びや経験の機会があるとともに、ちょっとした悩みごとや困りごとを相談できる場にもなり得ると考えています。
行政の支援機関とは異なり、敷居が低く、多様性があることから、「こどもの居場所」には大きな可能性が秘めていると感じました。誰ひとり取り残されない「こどもの居場所」がある社会の実現に向けて、こども家庭庁職員として何が出来るのか、改めて考える機会をいただけた大変有意義なインタビューでした。(こども家庭庁・池上)
校内にカフェがある。しかも学校外の福祉関係者が運営しているってどういうこと?という疑問から始まった長崎市の校内居場所カフェの取材。印象的だったのは、居場所づくりに関わる皆さんが立場を超えて、ひとりの大人としてこどもたちに接していること。カフェの中では、先輩が後輩を気に掛けたり、スタッフと一緒に運営側を手伝ってくれたりと、こどもたちの新たな役割も生まれてきていました。与えられている立場の鎧を脱ぎ「こうあらねばならぬ」にとらわれすぎないことが、生徒とスタッフ、先生の信頼関係を結ぶために大事なことのように思いました。福祉と学校の連携、こどもと大人の間の役割の転換、まさに分野を越境して、ゆるやかなつながりが生まれる事例でした。
Vol.4では、こどもの居場所づくりについて居場所を複数もつこと、選択肢があることの大切さについて伺いました。“多様性”は地域共生社会を目指す上でも欠かせない視点です。頼れる先をいくつももっている状態にあることが、ひとりひとりの豊かな暮らし、セーフティーネットになるように思えます。(宍倉)
校内居場所カフェの記事はこちら
■noteの連載「地域共生を考える」
■リンク集
ご興味を持っていただいた方は、こちらのサイトもぜひご覧ください。
こどもの居場所づくりに関する調査研究 報告書概要(令和5年3月)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kodomo_ibasho_iinkai/pdf/ibasho_houkoku_gaiyou.pdf
こどもの居場所部会(令和5年)https://www.cfa.go.jp/councils/shingikai/kodomo_ibasho/
地域共生社会のポータルサイト
https://www.mhlw.go.jp/kyouseisyakaiportal/