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国民の健康を守るため、羽田空港で日々奮闘する3名の職員にインタビュー

第2弾【前編】海外旅行へ行く人必見!編

皆さん、こんにちは。カケル・プロジェクト(※)のメンバー、溝尾です。

いろいろな政策に携わる厚生労働省の職員がどういう人物なのか、日々どういう仕事をしているのか、現場で働く職員の生の声をお伝えするインタビュー企画「厚生労働省の謎に満ちた仕事シリーズ」の第2弾をお伝えします。

第2弾では、謎に包まれた羽田空港検疫所支所に潜入し、自分の目で見て感じた「検疫官」のリアルをお伝えします。

 「マトリ」の実態をお伝えした【第1弾】こちら

(※)カケル・プロジェクトとは
広報活動に興味・関心を持つ、意欲あふれる若手・中堅職員で構成されたチームによる「広報改革加速化プロジェクト」の通称です。省内公募で手を挙げた有志職員が、厚生労働省noteの執筆や省内広報等に携わっています。

【インタビューする人】
・溝尾 沙希子(政策統括官付参事官付人口動態・保健社会統計室 統計解析専門職)
【インタビューされる人】
東京検疫所羽田空港検疫所支所検疫衛生課の皆さん。
・大澤 智治(空港検疫管理官)
・大森 優子(主任看護師)
・渡邊 真名斗(食品衛生専門職)

皆さんは「検疫官」という仕事をご存知でしょうか?

新型コロナウイルス感染症の水際対策で知った方も多いかと思います。
検疫官は厚生労働省の職員で、検疫官が働く検疫所は全国の海港や空港に計111か所設置されています。検疫所では、海外からの帰国者や入国者に対する検疫や、感染症のまん延を防止するために空港や海港における衛生業務等を行っています。
また、検疫所では、検疫官が行う業務以外に、食品衛生監視員による海外からの輸入食品等の監視・指導業務や、残留農薬や微生物などの試験検査業務も行っています。
 
そこで【前編】では、さまざまな業務の中で皆さんが一番イメージしやすい検疫業務にスポットライトを当て、検疫の現場のプロから海外旅行で注意していただきたい感染症についてお伝えします。
さらに【後編】では、羽田空港検疫所支所でのさまざまな業務を通して謎に迫る内容となっています。


まずは検疫業務について

ー検疫官の仕事の中でも、皆さんが一番イメージしやすい仕事が検疫業務ですね。

大澤:そうですね。検疫業務は、海外からの入国者や帰国者の体調不良者のなかに検疫感染症に感染している方がいないかを確認し、国内での感染症まん延を防止するというのが主な業務となります。
 
検疫感染症は国内には常在していない感染症で、①いわゆる一類感染症(エボラ出血熱、クリミア・コンゴ出血熱、痘そう、南米出血熱、ペスト、マールブルグ病、ラッサ熱)、②新型インフルエンザ等感染症、③二類感染症の中東呼吸器症候群と鳥インフルエンザ(H5N1およびH7N9)、そして蚊媒介感染症であるジカウイルス感染症、チクングニア熱、デング熱、マラリアがあります。
 
このうち、デング熱等の蚊媒介感染症に遭遇することが多いです。

海外から日本に到着した後、入国審査の前に検疫官がいる検疫カウンターを必ず通ります!海外に行かれたことがある方は覚えていますか?

海外旅行へ行く際の注意点

生食やアレルギー、蚊や狂犬病などには特にご注意ください!

ー海外旅行へ行かれる方には、検疫感染症に注意いただきたいですね。
海外で食べ物や飲み物からうつる病気で特に注意しないといけないものはありますか?

大澤:処理されていない生の食べ物の摂取自体を控えていただければと思います。
それと、感染症と直接関係ないですが、食品のアレルギーにも注意ですね。ご自身のアレルギーを正確に把握されている方は少ないです。たとえばマンゴーを大量に食べるとアレルギー症状が出る場合があります。日本ではアレルギー症状が出なかった食べ物でも、大量に食べてアレルギーを引き起こす可能性もあり得ます。
 
大森:アレルギー症状は体調によって出やすくなるということもありますね。たとえば、海外旅行先の時差で疲れがたまり免疫力が下がっていたりすると、アレルギー症状が出やすくなるので注意しなければなりません。

海外で流行している感染症について、空港でも注意喚起しています。心当たりがあれば検疫官に相談してください!

ー海外で虫や動物からうつる病気で、特に気を付けないといけないものはありますか?

 渡邊:世界で最も多くの人命を奪っている生き物第1位は何だと思いますか?答えは「蚊」です。命を守るためにも、蚊にさされないように虫除け対策をしっかりしていただきたいです。 
服装は長ズボン長袖、ゆったりした服で、色は黒より白や薄い色がベストです。

また、蚊がいっぱいいるところは暑いところになるので、日焼け対策をされる方が多くいらっしゃると思うのですが、日焼け止めと虫除け剤を塗る場合は順番が大事です。
先に日焼け止めを塗って、日焼け止めが乾いてから、外側に虫除け剤をムラなくまんべんなく塗っていただくようにお願いします。順番を逆にすると虫除け剤の効果が弱くなるので注意してください。

 あと、虫除け剤を購入される際には成分を見て購入してください。成分表示に「ディート」または「イカリジン(ピカリジン)」が入っているものを選択していただきたいです。

大澤:成分は重要ですね。日本で購入できる虫除け剤の有効成分が、必ずしも海外の蚊にとって有効な濃度ではないこともあります。現地で販売されている濃度が濃いものを購入することも、検討の選択肢に入れていただきたいと思います。

蚊にさされてしまうと、ただかゆいだけではなく、命に関わる感染症にかかる可能性がありますので、効果の高い虫除け剤を使用していただきたいです。

 大森:あと、動物で怖いのは「狂犬病」ですね。東南アジアなどでは放し飼いになっている犬もいるので、かわいいと思っても安易に近付かないようにしてください。
その犬が家で飼われていてワクチンを接種していることが確認できていれば問題ないですが、確認できない場合は近付かないようにしてください。

 狂犬病に関しては発症したらほぼ助からないので注意してください。もし動物に咬まれるなどした場合は、ただちに現地の病院に行くことをおすすめします。
症状が軽いからといってそのまま放置しないで現地で受診し、帰国してから日本でも受診してください。また、検疫所の職員にも声をかけて相談していただきたいです。

 大澤:狂犬病は「犬」という字が入っていますが、犬特有の病気というわけでなく哺乳類全般(犬以外にも、猫、猿、コウモリ、キツネなど)から感染しうることにも注意しなければいけないですね。狂犬病は日本に住んでいると実感しにくいですけれど、全世界ほとんどの国で狂犬病のリスクがあります。日本とアイルランドの一部、ニュージーランド、イギリス、オーストラリアなどの島国以外ではほとんどの国でリスクがあるとお考えいただきたいです。

 また、中東へ行かれる方はラクダに接触したり、非加熱のラクダのミルクを飲んだりしないようにしてください。ラクダが中東呼吸器症候群(MERS、マーズ)のウイルスに感染していることがあります。地元の業者が安全だというラクダも含め、全てのラクダに接触した場合は健康監視の対象となる場合がありますので、検疫所へご相談ください。

大森:渡航先がどこであっても、事前に検疫所のウェブサイト をきちんと確認して、旅行先で流行している感染症を調べてから海外に渡航していただきたいです。

厚生労働省検疫所 海外で健康にお過ごしいただくための情報サイト「FORTH」

ー検疫所のウェブサイト以外で、海外へ渡航される皆さんへ周知していることはありますか?

大澤:羽田空港では、ターミナルの出発エリアに情報提供エリアを設けておりまして、動画やリーフレットなどで周知し、出国時に職員に相談いただけるよう、普及啓発を行っています。

旅行前のワクチン接種も有効です

ー海外旅行の前にワクチンを打つ必要がある場合もありますよね?

大森:検疫所では黄熱のワクチンなどの相談を受け付けています。たとえば、観光地として有名なイグアスの滝に行かれる場合、ブラジルは黄熱のリスク国なのでワクチンを接種していただくことでリスクを回避できます。

また、ブラジルなどリスク国に渡航した方は、その後、パラグアイやタイなどに行く場合はイエローカード(黄熱の予防接種証明書)をパスポートと一緒に提示しないと入国できません。各国の感染リスクとイエローカードの要求状況については、FORTHでご確認ください。

大澤:黄熱のワクチンは生涯有効で、検疫所をはじめ厚生労働省が指定した医療機関で接種することができます。昔はイエローカードの有効期間は接種10日後から10年間でしたが、今は接種10日後から生涯有効になりました。有効期間が変更となる前(2016年7月11日より前)に発行したイエローカードについても生涯有効の証明書となりますが、一部に入国を認めない国があるので、有効期限の書き換えをお勧めします。
 

ーどのくらい前にワクチンを接種すればよいですか?

大森:黄熱の抗体価が十分に上がるまでに接種後10日間かかりますし、黄熱予防接種はすべて予約制になっていますので、渡航一か月前までには準備いただくことをおすすめします。イエローカードの発行は、接種当日可能ですが、イエローカードが有効になるのは接種10日後からですので、入国にイエローカードの提示が義務の場合には注意してください。

その他のワクチンについては対応しているトラベルクリニック等で接種してもらうことになりますが、複数のワクチンを接種する必要がある場合は、さらに時間がかかることがあります。検疫所の相談窓口にご連絡いただければ、渡航計画と接触歴を伺い、どのワクチンを打てばよいかのご案内を行っています。

大澤:その他のワクチンについてもさまざまあります。たとえば破傷風については、大体の方は子どものときにワクチンを接種しているかと思います。

ただ、年齢を重ねると抗体も落ちていくので、抗体価を上げるために再度ワクチンを接種していただく必要があります。特に田園地帯に行かれる場合はご検討いただければと思います。また、犬にかまれた際に、破傷風菌に感染することもありますので、ブースター接種をご検討ください。 

帰国時と帰国後の注意点

ー飛行機を降りた直後、感染症に感染していてもまだ症状が出ていない方もいらっしゃると思うのですが、どのような対応を行っていますか?

大森:ポスターなどで注意喚起させていただいているので、その情報を見た方から、「この国からきて、ラクダに乗った」「市場で鶏を触ってしまった」といった相談を受けることもあります。
また、検疫のブース内にサーモグラフィーを設置しているので、ご本人が自覚していなくても、発熱があれば反応がありますのでお声がけをさせていただき、必要であれば検査を行います。

ー飛行機を降りて何日かたってから体調不良になった場合はどうしたらいいですか?

大澤:医療機関を受診する前に、到着された検疫所やお住まいの保健所などに電話で相談してください。一歩踏みとどまって相談してからいくことが重要です。
また、日本に帰国してからも蚊にさされないように注意してください。日本の蚊が他の人に刺して感染症をうつす場合もあります。帰ってからも気をつけてください。

大森:安全に海外旅行を楽しんでいただくために、事前に検疫所のウェブサイトで感染症情報を確認していただきたいですね。

大澤:そうですね。また、海外旅行先での感染症の心配だけでなく、たとえば、ハワイに行かれる方で多いのが、日本でインフルエンザにかかり気づかずにハワイに行き、周りの方がインフルエンザにかかって帰国されるというケースが年末年始のインフルエンザが流行している時期に多いです。

これから時期をずらした夏休みを取得される方もいるかと思います。海外旅行を楽しむためにも、日本にいるとき(出発前)から体調管理に気をつけていただければと思います。

左より、渡邊さん、大澤さん、大森さん。検疫官の皆さんと一緒に写っているのは、検疫所のイメージキャラクター「クアラン」。子どもたちに大人気のキャラクターです!

【前編】では、海外旅行で特に注意してほしい内容をお伝えしましたが、海外旅行へ行かれる方は参考になりましたでしょうか。

引き続き、羽田空港の検疫所に潜入して検疫官の謎に迫った【後編】をご覧ください!

【後編】はこちら!