検疫官は防波堤?その謎に満ちた仕事とキャリア。新型コロナ感染症の水際対策なども聞いてみた!
第2弾【後編】羽田空港の検疫所に潜入!
皆さんは羽田空港を利用されたことがありますか?
【後編】では、羽田空港にある羽田空港検疫所支所に潜入し、皆さんが知らない検疫所の謎に迫ります。
この記事の最後に、検疫官の採用試験を受けようと考えている方へ向けた案内もございますので、記事を読んで検疫官の業務に関心をもたれた方はぜひご覧ください。
海外での感染症予防対策について語った【前編】はこちら
【インタビューする人】
・溝尾 沙希子(政策統括官付参事官付人口動態・保健社会統計室 統計解析専門職)
【インタビューされる人】
東京検疫所羽田空港検疫所支所検疫衛生課の皆さん。
・大澤 智治(空港検疫管理官)
・大森 優子(主任看護師)
・渡邊 真名斗(食品衛生専門職)
24時間フル稼働する「羽田空港」検疫所
ー羽田空港の検疫所について教えてください!
大澤:空港にある検疫所では、空港の規模によって取り扱う航空機数が異なります。その中でも、成田空港と羽田空港では、取り扱う航空機が非常に多くなってきています。
特に、成田空港検疫所の規模は非常に大きいです。成田空港検疫所と比べると、羽田空港検疫所支所は、名称に「支所」とあることからも分かるとおり、検疫所の規模としては成田空港検疫所ほど大きくはないです。ただ、限られた人員でこの規模の施設を対応しなければならないので、結構ハードです。
また、成田空港と異なり羽田空港は24時間休むことなく航空機が離発着します。深夜の時間帯も時間を区切って職員が起きて対応しなければならない大変さがあります。
5つの業務(検疫、港湾衛生、動物の輸入届出、輸入食品監視、試験検査)
ー羽田空港で行っている検疫所の業務について教えてください!
大澤:検疫所の業務は、大きく分けると5つあります。
まず1つ目に、【前編】でも少しご紹介した検疫業務があります。
羽田空港の検疫の現場では、24時間365日サーモグラフィーという装置を用いた入国者の体温チェックを行い、発熱がある方や体調不良の方に対して、海外でどのような滞在をされていたか聞き取りを行っています。
また、必要な方には採血などをさせていただき、検疫感染症にかかっていないかの検査を行っています。
また、海外から流入する呼吸器感染症を把握するため「入国時感染症ゲノムサーベイランス」を行っています。発熱等がある方のうち同意を得られた方の検体を用いて病原体等を調べています。
2つ目に、港湾衛生業務があります。
蚊やねずみなどの病原体を媒介する動物が、航空機を介して運び込まれてくることがあります。定期的にそういった媒介動物の調査を行い、空港区域内の衛生状態の把握と保持に努めています。
3つ目に、動物の輸入届出業務があります。
輸入動物を原因とする人への感染症を防ぐために、陸に生息している哺乳類や鳥類について、輸出国の政府が発行した衛生証明書により届け出の手続きを行うことで国内に持ち込めるようになります。輸入される方に関しては、輸入届出制度の説明や案内、届け出された書類の審査を行っています。
4つ目に、輸入食品監視業務があります。
食品衛生監視員が行う輸入食品監視業務では輸入品のうち、販売や営業に使用するための食品、食品添加物、食器、容器包装、あとは乳幼児を対象とするおもちゃを対象としています。
おもちゃがなぜ輸入食品監視業務の対象になるかといいますと、乳幼児はおもちゃを口に入れますよね。そういったものを輸入される場合は食品衛生法に基づいて、輸入の都度、検疫所の窓口へ届け出が必要になります。
食品衛生監視員が届け出の審査を行い、違反の可能性が高い食品などに対する検査命令、食品安全の状況を幅広く監視するためのモニタリング検査というものを行うとともに、輸入を予定されている方からの輸入相談を通じ、問題のある食品などが輸入されることのないよう安全確保に努めています。
最後、5つ目に、試験検査業務があります。
試験検査業務では入国時に発熱等の健康状態に異状があり、医師による診察等で検査が必要と判断された方について、デング熱やマラリア、中東呼吸器症候群等の検査を実施しています。
また、港湾衛生業務において、空港区域内や航空機内で採集された蚊やねずみについて、種類の同定、蚊はフラビウイルス等のウイルス検査、ねずみは解剖し、ペスト等に感染していないかの検査等を実施しています。
大森:私は看護師なので、主にサーモグラフィーをつかった入国者の体温確認時に反応した発熱者や体調不良者に対して声がけし、海外滞在中の行動等の聞き取りを行い、必要に応じて採血などを行っています。
さらに、先ほどご説明のありましたゲノムサーベイランスも行っており、海外から流入する呼吸器感染症を把握するため、同意を得られた方にはさらに詳細な聞き取りを行い、医師と相談の上で検体を採取しています。
また、機内の乗務員から事前に体調不良者がいらっしゃるとの連絡があった場合には、機内に赴きその方の体調を確認します。検疫感染症の疑いがあれば、厳重な対応に移行しますが、疑いが無いと判断すれば、他の乗客を含め降機いただき、入国手続きへ進んでいただきます。
渡邊:私からは、港湾衛生業務のうち機内調査についてお話します。機内調査というのは、航空機内に入り、海外から蚊が侵入していないかを確認する業務です。乗務員の方からフライト中に蚊がいなかったか確認し、ライトを当てて機内を探したりします。
新型コロナウイルス感染症の水際対策
ー新型コロナウイルス感染症の水際対策の対応は大変だったかと思います。特に苦労したことを教えてください。
渡邊:私は、当時は成田空港検疫所の衛生課という検疫とは別のところで働いていました。新型コロナウイルス感染症の水際対策では、検査課に応援で入ることになり、検査業務を任されました。
成田空港では多くの人が入国するため、一人一人の検体(唾液など)からRNAを抽出していく作業等で多くの検体を処理しなければならず、時間がかかりました。
検体の入れ間違いをしてしまうと、大きな影響を及ぼしてしまうため 、大人数の検体を処理しないといけない状況でも常に集中力を切らさないようにしていました。当時の検査室は24時間体制でしたが、私1人で1日200~300件の検査を行っていました。それを複数名で対応していたので、全体だと1日1,000件を超える検査を行っていたかと思います。
大森:私もコロナ禍の時は成田空港検疫所に勤務していました。当時は緊急事態宣言などメディアで大きく報道されていましたが、入国される方の中には、感染症の水際対策は自分に関係のある事だと思っていない方が多く、理解が得られないことも多々ありました。
入国してから検査を待っている間に、検査をすること自体の協力が得られず不満をぶつけられる方も多く対応に苦慮しました。
入国者に理解を求めることが難しい場面も多かったですが、水際対策の重要性について丁寧に説明し、必要な対応を行いました。
また、成田空港は夜中まで航空機の到着があり、到着終了後に翌朝からの検疫対応に応じた入国者の検疫動線に変更しなければならないこともありました。翌朝の飛行機が到着する前までに対応を終えて準備を整えなければならなかったため、時間に追われて大変でした。
ただ、その中でも皆で力を合わせてコロナ禍を乗り越えられたことは、貴重な経験だったと思います。
大澤:私は、コロナ禍では、東京港での船の検疫を行い、その後空港の検疫をやらせていただいています。これまでに経験したことのない感染症ということで、いつ収束するのか終わりがみえないという状況で絶えず緊張感をもって日々業務にあたるという、非常に困難な経験でした。
水際対策において、海外からの入国者の中には、新型コロナウイルスに対する危機感が低い方も多く、検疫業務の必要性の理解がなかなか得られないということで苦労することが多々ございました。
そのような中で、チームとしてさまざまな情報を共有し、お互いに支え合いながら対応ができたことが、現在のチームづくりにつながっていると考えています。
増加する訪日外国人への対応
ー最近は訪日外国人が増えてきていますが、対応で苦労していることはありますか?
大澤:最近は非常に増えてきていますね。特に大型連休やお祭りなどのイベントシーズンになると多くの方が訪れます。たとえば、京都の祇園祭だとか、博多の山笠だとかがある夏の時期は、かなりの数の外国からの旅行者がいらっしゃいますね。
私たちの対応する業務内容に国籍は関係なく、日本の方であっても外国の方であっても対応は同じで、感染している可能性がある方には必要な検査等をしていただきます。
苦労していることでは、外国の方ですと母国語の対応が大変です。お若い方は英語ができる方が多いですが、母国語しかできない方にどのようにすれば意思を伝えることができるかは課題です。たとえば、翻訳機械を使用する場合もありますし、ボディランゲージなどを交えてコミュニケーションを取るなどしています。
検疫官という仕事。そしてキャリア
ー羽田空港の検疫所は24時間体制で大変かと思いますが、ワークライフバランスはいかがでしょうか?
大澤:私は小学生の子どもがおりまして、子どもが小さい頃には発熱で急遽帰宅しなければならないことも多々ありました。病気にかかった子どもを病院に連れて行かないといけなくなることもあります。そういった場合、私が不在でもチーム全体が対応できるように時間ごとの人員の配置にするなどしています。家庭の事情等があっても働きやすいチーム体制になっています。
ー専門性が高い業務かと思いますが、努力されていることはありますか?また、同じ分野で専門性を磨きキャリアアップしていくのでしょうか?
大森:感染症の情報は日々アップデートされるため、そのアップデートに合わせて自分も知識を増やしていく必要があります。そのため、研修や感染症等の学会に参加し自己研鑽に励んでいます。また、WHO(世界保健機関)やCDC(アメリカ疾病予防管理センター)などの情報を日々確認して、入国者に相談された場合に対応できるように努めています。
渡邊:蚊の病原体検査をする場合、種によって媒介する病原体が異なったり、病原体を媒介しない種がいたりするため、その種が何なのかを同定しないといけません。顕微鏡や検索表を使って同定していきますが、分岐点で判断が必要になるところが多々あるため、日々の業務で知識を習得し経験を重ねていかなければなりません。
専門性が高い業務につくこともあれば、必ずしも同じ業務を続けるというわけではなくさまざまな業務を経験してキャリアアップしていく人もいます。
ー検疫所は全国にありますが、異動や転勤はありますか?
渡邊:全国の検疫所だけでなく、本省や厚生局などの他機関で働くチャンスがあります。異動は2~3年のサイクルで、全国各地への転勤の可能性もありますが、定期的に実施する意向調査で希望を出すことができ、家庭の事情などを考慮した上で決められます。
ー検疫官の仕事に興味をもたれた方へメッセージをお願いします!
大澤:検疫所の仕事はチームで協力して進める業務です。
私たちが働く羽田空港検疫所では24時間365日、常に緊張感をもって職務にあたるということと、和気あいあいとフォローしあいながら仕事をしていくということが2つの車輪だと思っています。
チームで働いてみることに興味がある方はぜひお待ちしています。
検疫官のリアルをお伝えした【第2弾】はいかがでしたか?
検疫官という言葉を知っていても、具体的にどんな仕事をしているのか深く知らなかったという方も多いと思います。
普段の日常では、安心安全な暮らしが当たり前であると感じてしまいがちですが、検疫官の皆さんがさまざまな感染症から「防波堤」となって守ってくれていることに気付かされました。
そして何よりも、海外から入国や帰国される皆さんの協力がなければ成り立ちません。これからも検疫にご協力をお願いします!
検疫所で働きたいと思った方へ
今回の記事を通じて検疫官の仕事に興味をもたれた方、日本の公衆衛生を守るために検疫所で働いてみませんか?
検疫所では、日本の公衆衛生を守るため、さまざまな職種の職員が協力し合いながら働いています。職種別に採用情報を掲載していますので、以下の採用情報をぜひご覧ください。
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