見出し画像

「地域共生社会」とは村人Aが主役になる社会である【地域共生社会を考えるvol.1】

こんにちは。
社会・援護局 地域福祉課 地域共生社会推進室の宍倉と申します。
私は、約2年前に民間企業から厚労省に出向してきました。廃棄物のリサイクルや環境コンサルティング、循環型の地域づくりなどに取り組む会社で新規事業の開発をしていました。福祉っぽくなさそうな世界から、ご縁があり、「地域福祉課」にやってきました。

私が所属するのは、地域福祉課の中の「地域共生社会推進室」です。

この部署では、地域共生社会の実現に向けて、地域の皆さんが抱えるさまざまなニーズや困りごとに対し、行政・地域住民・支援関係機関が連携しながら市町村全体で支援していくための体制づくりを行っています。

地域共生社会推進室メンバー

地域共生社会はわかりにくい?

さて、「地域共生社会」という言葉から、皆さんはどんなイメージを持ちますか?
ふわふわした抽象的な言葉で、わかるような、わからないような…。

 検索サイトで「地域共生社会」と入力してみると、続いて「わかりやすく」「自分にできること」といった言葉が並びます。

 「なんだか良さそうだけど、具体的にはどういうことかイマイチわからない」
「私の仕事や暮らしにどう関係しているのだろう」

そんな風に思っている人がたくさんいるのかなと想像します。

「自分にできること」だなんて、興味をもって考えて、調べてくれる人がいるのは、推進室としてはとても嬉しいこと。でもあんまり伝わっていないとしたらもったいない…。まだまだ発信が足りないんじゃないか。

そんな思いがあり、noteで短期連載を始めることにしました。
連載1回目となる今回は、言葉をかみ砕いたり、事例を挙げながら、地域共生社会のイメージを皆さんと共有できればと思っています。

では、地域共生社会って何?

まずは国が掲げているビジョンを眺めながら、地域共生社会とは何か考えてみましょう。
ちょっと専門的な言葉も使って説明しますが、少しだけお付き合いください。

地域共生社会とは、“制度・分野ごとの「縦割り」や「支え手」「受け手」という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超えてつながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会”を指しています。

「地域共生社会とは」地域共生のポータルサイトより

 このビジョンが言わんとしていることを〈背景〉〈3つの「超える」視点〉から、かみ砕いて見てみましょう。

〈背景〉
日本の社会保障では、介護や障害者福祉に関する制度など、特定の「誰か」や、特定の「何か」にお金やサービスを届けるというアプローチをしてきました。
これらの制度は今後も必要とされる一方で、人々が抱える困りごとや生きづらさは多様化し、これまでの仕組みだけでは対応しきれないケースも顕在化してきました。

例えば、ひとりの人やひとつの世帯が、複数の悩みや困りごとを抱えているとき、ある特定の課題のみを切り取って制度に当てはめるだけでは、生活全体をケアできているとは言いにくいでしょう。
あるいは、困りごとが重なって複雑になったり、周りに相談することができないと、本人やその世帯がますます孤立したり、生きづらさが深まっていくことも考えられます。

さらに、家族や地域、職場のあり方も時代とともに変化してきています。これまであった共同体としての機能、生活を支えていた関係性の基盤が弱まってきています。

自分の生活を考えてみると、どうでしょうか。

病気や健康のこと、子育てのこと、介護のこと、収入や生活費のこと、家族との関係…。
生活する中での課題は、多かれ少なかれ、誰もが抱えていたり、あるいは将来直面する可能性もあります。

福祉の現場の実践者や当事者の話を聞く中で、たくさんの課題を抱えているように思える人や世帯も、そのひとつひとつを紐解いていくと、実はその「生きづらさ」は全ての人にとって身近な問題であり、他人事ではない、ということに気付きました。

病気になったとき、家族の介護が必要になったとき、あるいはそれらの悩みが複数重なったとき、私の生活はどう変わるか。相談できる人は身近にいるだろうか。訪れる困難は、全てが自己責任なのか…。そんな風に考えていくと、地域共生社会で言わんとしていることが自分の生活にも無関係ではないような気がしてくるのです。

では、地域共生社会で目指す社会の中身を見ていきましょう。


〈3つの「超える」視点〉
地域共生社会のビジョンでは、3つの「超える」視点が示されています。

①    制度・分野ごとの「縦割り」を超える
ひとりの人、ひとつの世帯が複数の課題を抱えている場合、分野ごとの課題を捉えるだけではなく、その世帯まるごと、あるいはその人を取り巻くコミュニティも含めた生活全体の支援を考えていくことが必要です。

縦割りだった公的な支援も含め、制度や分野にとらわれずに世帯・本人に対して包括的な支援をしていこうというのが1つ目の視点です。

②    「支え手」「受け手」という関係を超える
支えているつもりが、実は自分も相手の存在に支えられていると感じたことはありませんか。

公的な制度では、「支え手」「受け手」という役割がはっきりと区分されていることが多いですが、日常の暮らしに目を向けたときに、役割や人と人との関係性は固定化されていません。ある場面では支えられている人かもしれないけれど、他の場面では実は誰かを支えていたということもあるのではないでしょうか。

他者との関わりの中で、認められている・役に立っていると感じ、自分の存在意義を確かめる。それが生きる力につながるかもしれない。

そうした好循環を生み出すためにも、「支え手」「受け手」の関係性を超え、支え合う関係性をつくっていこうというのが2つ目の視点です。

③    「世代や分野」を超えてつながる
これまで触れてきたように、生活全体を考えると公的な支援だけでなく、地域コミュニティの中での役割(元気になる場=居場所)を見つけることが大切です。
例えば、若い世代と高齢世代では得意・不得意が異なります。個性が異なるからこそ、それぞれの“得意”を活かした支え合いの仕組みを考えることができるのではないでしょうか。

同様に、福祉分野に関わる人や既存のサービスだけで複雑・複合化した課題に取り組んでいくことは現実的ではありません。例えば、耕作放棄地や森林の管理、空き家問題、商店街の活性化といった地域の課題は、違う視点から見れば新たな活動を生み出すタネでもあると言えるでしょう。

地域は、高齢者、障害者、子どもといった世代や背景が異なる人々が集い、ともに参加できる場であり、新たなつながりが生まれる可能性を秘めています。
そうした地域の可能性を最大限に活かし、世代や分野を超えて多様な属性をつなげていくことで持続可能な形に地域を再生していこうというのが3つ目の視点です。


こうして見ていくと、制度に人を合わせるのではなく、人の「暮らし」を中心に置いて、これまでの枠組み・考え方から「越境」して「つながって」いくことが、地域共生社会に取り組むカギとなりそうです。

わくわくする2つの事例(宮崎県三股町と福岡県久留米市)

まずはじめは、宮崎県三股町にある「樺山購買部」。
地域のお惣菜屋さんの商品をセレクト・販売しており、一人暮らしの高齢者が買い物に訪れます。また、私設図書館や文房具のリサイクル品販売も併設し、子どもたちが集う場にもなっています。

スタッフとして、社会福祉協議会の職員さんが関わっていますが、子どもたちにとっては「樺山購買部の○○さん」。
日常の中から関係性をつくっておく。「福祉を押しつける」のではなく、「福祉を暮らしに潜ませる」ことで、いざとなったときにケアの視点で関われるつながりづくりをしています。

樺山購買部のようす

そもそも、このプロジェクトは、「空き家の問題」「高齢者の買い物問題」を起点として、何ができるか、どんな場所にしたいか?と、住民自身がアイデアを出し合うところから始まりました。あるひとりの課題をきっかけに、さまざまな人が関わるプロジェクトにしていく。そうやって、『「地域の課題」に即した「活動」と「プレイヤー」を生み出すことで、地域の困りごとを「解決」していくことを目指している』のです。
コミュニティデザインラボHPより)

そして、同じく九州にある福岡県久留米市では、地域共生社会につながる「地域福祉の推進」とはどういうことかを改めて考え、「“○○し合える”関係をめちゃくちゃ増やすこと」と表現しています。

楽しい活動をきっかけにして出会った人たちが「実は私こんなことに困っているんだよね」という”本音の話“が自然にできるようになり、「あなたの問題も私たちの問題だよね」と共感し、一緒に考えたり、行動したりする人が増えることが、実はとても大事なんじゃないか。そんな発想で、「やってみたい」から始まる地域づくりに取り組んでいます。(久留米の地域福祉マガジン【グッチョ】資料より

ワクワク・ドキドキが入り口となり、地域にローカルログイン*していくことで新たなつながり・活動が生まれる(*自分が住んでいる地域に目を向け「自分なりの地域との関わり方」を見つけること)久留米市で生まれた地域の人の出会いの場、はじロマ会。暮らしの中で感じた自分のロマンを話し、残りの人は心を開きロマンに浸る。会の終了後には、初めて会った人同士が、あたかも前から知っている人かのような距離感で話すように


「地域共生社会」とは村人Aが主役になる社会である

ここで紹介した事例のほかにも、地域共生社会というビジョンが打ち出されるずっと前から実践を積み重ねてきた方々や、分野や制度の垣根を超えて活動する方々が、既に地域には数多くいらっしゃいます。

その方々にお話を聞くと、取り組みの形はさまざまで、ひとつの正解があるものではない、ということがよくわかります。むしろ多様な人が自分なりの方法で参画していくことが大切なのではないでしょうか。
だからこそ、制度や分野を「越境」してこれまでつながっていなかった人や資源が「つながる」ことが、多くの可能性を生み出すのではないか、と思うのです。

ひとりでは手に余ることも誰かと一緒にやればできるかもしれない。興味・関心が入り口となり、隣にいる人の生きづらさの背景を想像できるようになったり、今の範囲から少しだけ手を広げて何かに取り組んでみたりと、活動に関わった人の意識や行動が変わるかもしれない。そうやって「自分なりの地域共生」への小さな一歩を踏み出せる人が地域に増えていくことは、より良い地域に向かって進んでいることそのものだと言えるのではないかと思うのです。


地域共生社会を実現する”主役“は、たったひとりのスーパーヒーローでも、いろんな問題を解決できる救世主でもありません。”村人A“である私たち住民一人ひとりなのです。


生活困窮者支援の最前線で活躍していた同僚が話してくれた言葉で、印象に残っているものがあります。

「地域共生社会」のような抽象度が高くて“キレイ”な言葉はつかみどころがないようにも思える。地域ってなんだろう。誰を指しているんだろうと。でも、地域をつくろう、変えようと思って何かをするのではなく、人と人とのつながりをつくり、広げていくことそのものが、地域共生社会に近づくことなのかもしれない 。


次回からは多様な人とつながる居場所づくりや、複数の主体で分野を超えた連携に取り組む3つの事例を一つずつご紹介していきます。これらの地域における実践をとおして、「地域共生社会」につながるタネはあちこちにある!ということを感じていただければ嬉しいです。

取材をするのは、厚生労働省の各施策を担当している職員や関係団体の方と、地域共生社会推進室の職員です。「何をしているか」だけではなく、「なぜ」「どんなプロセスで」実践してきたのかをご紹介したいと考えています。

このコラムが、皆さんが越境し、化学反応を起こす後押しとなりますように。

■noteの連載「地域共生を考える」

■関連コラム
・広報誌「厚生労働」2020年7月号 Approaching the essence ─広報室長がめぐる厚生労働省の“ひと”─
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/202007_00004.html

・広報誌「厚生労働」2021年4月号 特集https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kouhou_shuppan/magazine/202104_00001.html

 ■リンク集
地域共生社会のポータルサイト
ご興味を持っていただいた方は、こちらのサイトもぜひご覧くださいhttps://www.mhlw.go.jp/kyouseisyakaiportal/