家政婦(夫)が働きやすい環境づくりのために
家事使用人の雇用ガイドラインの策定
こんにちは。厚生労働省労働基準局労働条件政策課です。
今回は、家事使用人の働き方について、皆さまにお知らせしたいことがございます。
家事使用人とは?
家事使用人とはどんな人のこと?
と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
家事使用人とは、簡単に言うと、多くは家政婦(夫)紹介所から紹介を受けて、家庭と直接労働契約を結び、家事一般を行っている方のことです。いわゆる、家政婦(夫)さんと呼ばれる方です。
家事サービスを提供する側の形態はさまざまであり、家事代行サービス会社に雇われ、その会社から家庭に派遣されて働くという人や、マッチングアプリなどを活用して個人事業主として働く人もいますが、家事使用人との違いは、 “家庭と直接労働契約を結んでいない” という点です。
家事使用人は、労働契約の基本的なルールが定められている労働契約法の適用はありますが、家庭の私生活と密着しているという特殊性から、労働基準法が制定された1947(昭和22)年当時から労働基準法が適用されておらず、一般の労働者のような労働条件等の最低基準の法的保障がないのが現状です。
家事使用人の働く実態(実態調査結果の紹介)
こうした中、家事使用人は、実際にどのような働き方をしているのかについて長らく実態調査を行っていなかったため、独立行政法人労働政策研究・研修機構に依頼してアンケート調査を実施しました。その結果、以下のことが分かりました。
【家政婦(夫)として働く方の基本属性】
・ 年齢:60~70代の方が全体の7割強(77.5%)
・ 性別:女性が9割強(98.8%)
・ 通勤・泊込の別:通勤が約8割(83.8%)
【家政婦(夫)として働いている理由】
【業務内容等】
【勤務時間等】
・あらかじめ決められた休憩時間と勤務時間の違いが明確か
明確ではないが6割(63.3%)
・1か月当たりの報酬
10万円未満の合計が6割強(66.6%)
・決められている契約内容
勤務時間、業務内容、就業場所、賃金関係、契約期間は、半数以上が決められていると回答
・病気やケガ、労災保険の加入状況
業務中の病気やけがの経験:いいえが約8割(81.5%)
労災保険の特別加入の有無:いいえが約4割(43.1%)、分からないが約1割(13.2%)
・特別加入していない理由
民間保険に入っているから、制度を知らなかったからが多い
・トラブルや困ったこと
トラブル等の内容:特にないが6割強(66.4%)。契約の範囲外の業務を命じられた(5.8%)、パワハラを受けた(5.5%)、業務で求められる水準が高すぎる(4.9%)、家庭からいきなり契約を切られた(4.5%)、セクハラを受けた(3.0%)など
・家事使用人という働き方に関する満足度
満足度:満足していると回答した合計は約8割(85.4%)
このアンケート調査を実施するにあたり、どのような聞き方が答えやすいか、アンケート調査は紙とWebどちらでの配布がよいのか、といったことを検討するため、家政婦(夫)紹介所に実際に足を運んで、家政婦(夫)紹介所の方や、家事使用人として働かれている方にお話を伺いました。
普段は、霞ヶ関の庁舎でパソコンに向かって仕事をしているため、このヒアリングは非常に新鮮なものでした。
特に、調査結果からも分かるとおり、家事使用人の方は高齢の女性の方が多く、また、お邪魔した家政婦(夫)紹介所の所長もご高齢の方が多かったため、なんだか実家に帰ったようなあたたかい気持ちでいろいろとお話を聞くことができました。
お話を伺う前は、家事使用人はどのような方なのか、どのように働かれているのかといったイメージが全然湧かなかったのですが、実際にお会いさせていただくことで、家事使用人の方がそれぞれ抱えている悩みや、家政婦(夫)紹介所の苦労話、行政に対する要望なども含め、ざっくばらんにお話いただき、どのような働き方をしていて、何に悩んでいるのかなどを知ることができました。
また、アンケート調査に関してもご意見を伺ったところ、高齢の方が多いのでWebより断然紙で配るのがいいと教えていただくなど、調査実施前にいろいろな情報を収集することができました。
そのおかげで、調査項目・手法についてヒアリング結果を踏まえてより深く検討することができ、1997名もの方にご回答いただき、アンケート調査結果をまとめることができました。
また、実際に顔を見て話をしたことで、○○さんが「こうなってくれたらいいなぁ。」とヒアリングで言っていたことを思い出しながら、本当に家事使用人の方が求めていることは何かについてより真剣に向き合うことができたと思います。
このような調査・ヒアリング結果から、家事使用人として働かれている方は、基本的には比較的短時間で働き、働く上でのトラブルも特段なく、ご自身の働き方に満足している方が多い一方で、業務内容や就業時間などが不明確であるため契約をめぐるトラブルが発生する、また、就業中のケガに対する補償が十分ではないなどの問題が一部にはあることが分かりました。
家事使用人の雇用ガイドラインの具体的内容(作成過程の話も交えて)
このような家事使用人の働く実態を受けて、厚生労働省としてどのような対策ができるか、さまざま検討し、家事使用人の働く環境をよりよいものにしていくための「家事使用人の雇用ガイドライン」を作成することとしました。
一部であっても働く上でトラブルが発生している家事使用人の方がいるのであれば、そうしたトラブルを一刻も早く解消・予防するために、ご家庭や家事使用人の方々が参考にできるようなガイドラインを作りたい!ということで、急いでガイドライン作成を企画しました。
限られた期間の中で、受託先との綿密な調整を行い、東洋大学名誉教授である鎌田耕一氏をはじめとした有識者に参画いただき、ガイドラインの内容について、ああでもないこうでもないと議論しながら作成を進めました。
特に、「介護業務」については、アンケート調査結果から介護保険に基づいて行っている方が一定数いらっしゃったこともあり、介護保険サービスとしての訪問介護と家事使用人が行う介護業務とをどう切り分けているのか、そもそもどこまで家事使用人は介護業務を行うことができるのか、といった点についてかなり時間をかけて議論しました。
その中で、厚生労働省の介護の担当部局(老健局)とも連携し、訪問介護との関係についてどのような記載にしたらいいかをお互い知恵を出し合いながら、ガイドラインの作成を進めました。
議論の場で有識者などからいろいろな意見が出る中で何度も何度も内容を練り直し、今年の2月にやっとの思いで完成、公表にたどり着くことができました。
そうやってできたのが、「家事使用人の雇用ガイドライン」です。
このガイドラインは、雇い主であるご家庭をメインターゲットとして作成し、家事使用人と労働契約を結ぶ際や、家事使用人に働いてもらう際に留意してほしい内容をまとめました。
しかし、実際に働く家事使用人にとっても自身の労働環境を考える上で参考にしてほしい内容にもなっており、また、紹介あっせんをする立場として家政婦(夫)紹介所の方にも読んでいただきたい内容となっています。
では、「家事使用人の雇用ガイドライン」には具体的にどのようなことが書かれているのでしょうか。
少しページを開いて読んでみましょう。
ここでちょっと小話ですが、
ガイドライン本体は、検討委員会でどうすればよりよいガイドラインになるのかを議論し、あれもこれも盛り込もう!としたところ、もともと16ページほどの予定でしたが、4ページほど増え、合計20ページという少し長めのガイドラインになりました。
内容についても誤解なくしっかり正確に書く必要があるだろうということで、分かりやすさに配慮しつつも、法律の規定など難しい内容も書くことにしました。
「難しい内容もあって、ページ数も多いから読むのが大変!」と思われる方もいらっしゃると思いますので、まずは、2枚にまとめた概要版のガイドラインを読んでいただくのがよいかもしれません。
前置きが長くなりましたが、これからガイドラインの内容について簡単に説明させていただきます。
ガイドラインに記載しているポイントは、大きくわけると次の3つになります。
① 労働契約の条件の明確化
② 労働契約の条件の適正化
③ 適正な就業環境の確保
文字だけ見てもイメージが湧かないと思いますので、かみ砕いて説明します。
①労働契約の条件の明確化
実態調査等において、働く際の労働条件が不明確という実態が明らかになったことから、家事使用人と契約を結ぶ際には、きちんとどのような条件で働くことになるのかを示すことがその後のトラブル防止などの観点から大事であるとしています。
何時から何時まで(働く時間)、どこで(働く場所)、どのような仕事を(業務内容)、どのくらいの金額で(報酬)行うのかなどについて、家事使用人とご家庭との間でしっかり決めておき、できれば口頭ではなく書面で示しておくことが望ましいです。
では、実際にどのようなことを決めておけばよいのかについては、ガイドライン本体のP18~19に労働契約書の記載例を掲載していますので、実際に契約内容を決める際にご活用いただけたらと思います(厚生労働省ウェブサイトでも掲載しています)。
②労働契約の条件の適正化
①で働く際の労働条件をしっかりと事前に決めておいてほしいということについてお伝えしましたが、決めておくだけでよいかというとそうではありません。長時間働かせたり、安い報酬で働かせたり、危険作業に従事させるような内容になっていては、何のために事前に決めたのか分かりません。あらかじめ示す労働条件の内容についても、家事使用人の方と話し合った上で、適正な水準となるようにする必要があります。
では、適正な水準とはどのくらいのものなのでしょうか?
それについては、今回ガイドラインの中で目安はこういう内容ですというものをお示ししています。
例えば、以下のようなことが考えられます。
・報酬については、家事使用人とよく話し合って決め、最低賃金を下回らないようにする
・働く時間については、長くても1日8時間、週40時間を目安とする
・業務内容については、仕事で求める水準と家事使用人が実際に行うことができる水準を確認してお互い合意した水準の業務とする
テレビでは、凄腕の家政婦(夫)が取り上げられたりしていますが、みんながみんな同じようにはできないので、しっかりそれぞれの家事使用人とご家庭の間で契約内容について話し合っていただくことが重要です。
③適正な就業環境の確保
事前にこういう条件で働いてもらうと決めていても、実際に働く上でそれらが守られなければ意味がありません。
そのため、家事使用人が気持ちよく働くことができるように、働き始めてからも働く時間を適正に管理したり、働く場所で危険がないようにしたり、もしなにかトラブルがあった時に対応できるようにしたりといったことも必要になります。
また、ご家庭が介護保険サービスと組み合わせて家事使用人を雇うケ―スもあり、同じ方に家事使用人としての業務と介護保険サービスの双方をお願いする場合には、特に働き過ぎとならないよう、ご家庭が家事使用人の健康に配慮するといった対応が求められます。
ご家庭は、雇い主としてしっかり家事使用人の働き方を把握し、働かせすぎていないか、なにか困っていることがないかなどに配慮するとともに、家事使用人本人もご自身の働き方に無理がないか自己管理を行うようにしてください。
その上で、いつでもお互いに働く上での色々なことを話し合えるような関係性を築いていくことが重要です。
①~③のほか、「契約の更新や終了(④)」についての話や、「加入できる保険(⑤)」についての話などもこのガイドラインで記載しています。
④については、家事使用人との契約終了に当たっては円満に解決できるように十分話し合ってほしいこと、⑤については、働きはじめるときに、家事使用人自身のケガやご家庭への損害に備えるための保険として何があるのか、どれに加入するのか、実際ケガや損害が発生した場合にどう対応するのかなどを確認してほしいということについて記載しています。
このガイドラインでは、ご家庭と家事使用人との関係に加えて、家政婦(夫)紹介所に留意してほしいことについても記載しています。
実際に家事使用人と労働契約を結ぶのは雇い主であるご家庭ですが、家事使用人の多くが家政婦(夫)紹介所から紹介を受けて働いているため、両者の契約成立をあっせんする立場として家政婦(夫)紹介所の協力も必要不可欠なものとなってきます。
そのため、ご家庭と家事使用人双方がしっかりと話し合った上で適正な内容の労働契約を結び、その契約内容に沿ってお互いが気持ちよく働き、働いてもらうことができるよう、家政婦(夫)紹介所においても積極的な支援をお願いしています。
家事使用人の働く環境をよりよくしていくためには、雇い主であるご家庭だけでなく、家事使用人本人や家政婦(夫)紹介所といった関係者全員の協力が必要不可欠です。
厚生労働省は、「家事使用人の雇用ガイドライン」をより多くの方に知っていただき、ご活用いただくため、全国の家政婦(夫)紹介所や各総合労働相談コーナーに配付したり、XやFacebookといったSNSへの投稿を行うなど、周知のための取り組みを行っています。
なお、ガイドラインについて詳しい内容を知りたい方は、厚生労働省ウェブサイトの家事使用人ページを覗いてみてください。
■家事使用人(家政婦・家政夫)について(厚生労働省ウェブサイト)