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将来の働き方を考えるのに必要なルールを作りました。今だけではなく、将来どこでどんな仕事をするか、書面で確認しておきましょう!


自己紹介

・今岡:労働基準局労働関係法課、入省8年目の職員。
・辻:民間企業から厚生労働省へ出向中。出向元の企業では、地域限定正社員として勤務していました。

この記事を読んで分かること

・「いわゆる正社員」と「多様な正社員」の違い
・2024年4月から労働条件明示のルールが変わること
・契約社員・派遣社員等に適用される「無期転換ルール」とは
・労働条件を確認して、働きやすい環境を選ぶことの重要さ

労働条件明示に関する法令改正の経緯

辻:今、少子高齢化により生産年齢人口が減少していますよね。人手不足といわれる中、柔軟な働き方を取り入れる企業もあると聞いたことがあります。私の出向元企業では、短時間勤務制度を利用して子育て等と仕事を両立される方も多いですが、社外の友人の中には、子育てしながらこの会社で働き続けるのは難しいから退職しようかな、と言っている人もいます。

今岡:従来のような、異動に制限がなくフルタイムで働く「いわゆる正社員」とは違って、勤務地や職種、勤務時間に制限を設ける「多様な正社員」制度のように、多様な働き方を取り入れる会社も出てきていますね。

辻:会社によっていろいろな制度を取り入れているというニュースも目にします。

今岡:そこで重要になってくるのが、自分自身がどのような条件で働くのかを知っておくことです。今回、会社から労働者に示す労働条件として、「就業場所・業務の変更の範囲」を新たに追加しました。

何がどう変わる?

今岡:辻さんは、現在の会社に入社する際に提示された労働条件を覚えていますか?
 
辻:労働時間や基本給の話など、いろいろな条件を説明していただきました。私は勤務地が限定されていましたが、同期の中には、勤務地が限定されておらず、全国転勤の可能性がある方もいました。あまり考えたことはありませんでしたが、勤務地が限定されているという点では私も「多様な正社員」なんですね。
 
今岡:そうですね。そのように、勤務地が限定されているのか、それとも広い範囲で変更する可能性があるのかが分かっていると、将来の働き方について考える材料になりますね。
 
辻:限定ということでいうと、最近は仕事の内容を限定するジョブ型雇用の考え方も話題です。自分がどんな仕事をする可能性があるのかは、キャリアを描く際に重要な情報ですよね。
 
今岡:その通りです。そこで、将来の見通しが立ちやすいように、企業からすべての労働者へ、将来の働く場所や、仕事の内容まで示していただくことにしました。
 
辻:労働者にとっては、今だけではなくて、将来も自分の希望する働き方ができるかを考えることができますね。会社にとっても、労働者へ異動の内示をしたときに「異動があるなんて思っていなかった!」といってトラブルになることを避けることもできそうです。
 
今岡:会社との認識を合わせておくことで、安心・納得して働くとともに、将来についても考えやすくなれば幸いです。


契約社員・パートの方に知っていただきたい無期転換ルールとは?

辻:他に、会社と認識を合わせておいたほうがよいことはありますか?
 
今岡:契約社員やパートの方に知っていただきたいのは、ご自身の労働契約がどれくらい更新されるのかと、「無期転換ルール」という制度です。
 
辻:無期転換ルール、私も出向してくるまでは全くなじみのない制度でした。1年や3年といった契約期間を設けて働く方に適用されるルールなんですよね。
 
今岡:はい。期間の定めのない契約を「無期労働契約」、期間の定めのある契約を「有期労働契約」とよび、「有期」労働契約から「無期」労働契約に「転換」することを「無期転換」とよびます。法律上、有期労働契約を更新して通算5年を超えた労働者には、会社に対して無期転換しますという申し込みができる権利、つまり「無期転換申込権」が発生します。この申し込みにより、無期転換するというのが無期転換ルールです。

辻:更新がなく働き続けられると思うと安心ですよね。民間企業で働く友人の中には「5年ルール」として知っている人もいました。

今岡:ただ、このルール自体が、あまり知られていないんです。

辻:そうみたいですね。調査では有期契約労働者の4割程度しか内容についてご存知なかったとか…。

今岡:でも、労働者の地位を守る重要なルールですので、活用してもらいたいのです。

辻:といっても、まずはルールを知ってもらうところからですよね?

今岡:そうなんです。

辻:そういえば、無期転換ルールのことをご存知の方のうち半数以上が、勤務先からの情報提供により知ることになった、という調査結果もありましたね。でも、制度だけ教えてもらっても、言い出しにくいかも…。

今岡:その通りですね。そこで今回、まず、会社から、「更新上限の有無と内容」を明示していただくことにしました。これにより、労働者が、その会社でどれくらいの期間働くことができるのか、また、5年を超えて働いて無期転換ルールを利用できる可能性があるのかを知ることができます。そして、無期転換申込権が発生する契約の更新時に、「無期転換申込機会と無期転換後の労働条件」を明示していただくことにしました。


辻:無期転換後の労働条件もなんですね。たしかに、無期転換後どういう条件で働くのかを知って初めて、無期転換するかどうか考えることができます。
 
今岡:有期労働契約のままでいることもできますし、5年を超えれば無期転換することもできます。更新後の労働条件は会社によってさまざまだと思いますので、それも踏まえて、ご自身がどのように働きたいのか、希望の方法を選択していただきたいと思います。

改正によって目指すものと我々の想い

辻:改めて、今回の改正によって、どのようなことを目指しているのですか?

今岡:最も大きな目標は、それぞれが働きやすい環境で働いていただくことです。そのためには会社と労働者が対等な立場で話し合っていくことが理想ですが、実際には難しい部分も多いと思います。そこで、会社がどのような労働条件で働いてもらいたいかを労働者に説明し、労働者はそれを理解・納得して働くということを目指しています。

辻:学生時代に就職活動をしたときは、実家のある関西地域に限定した働き方がしたいと思っていましたが、今回自ら希望して厚生労働省に出向することになり、一時的に東京で勤務しています。

関西ではできなかった経験をさせていただき、自分にとってよい環境で働くことができています。勤務地が関西限定であったことも、一時的に出向して東京で働いていることも、会社の示す条件から私が選択・希望し、それを会社が受け入れてくれた結果であるといえます。そのことには大変感謝していますが、全員が選択しないといけない状況を作ろうとしているわけではありません。
あくまでも、会社が示す労働条件を確認して、それぞれが望む働き方を選択することが「できる」ようになる後押しができればと思います。

今岡:人にはそれぞれの事情があり、働き方もさまざまです。その人が今後、どのような人生を送りたいのか、将来の働き方を考えるのに必要な労働条件を会社と労働者の双方で話し合い、決定し、形として残しておくことはとても大事です。今回の労働条件明示事項の追加は、将来の紛争を未然に防止することにもなり、会社と労働者の双方を守るためのとても大きなルール変更です。

その人にとってのよりよい働き方が何かを考え、今回新たに追加される明示事項と無期転換ルールをご活用いただき、ご自身が幸せになる働き方を選択していただけると幸いです。

2024年4月から労働条件明示のルールが変わります ー 厚生労働省|厚生労働省 (mhlw.go.jp)