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(発案者がもっと語ります!)とびラボ企画~『女性に寄り添う、いのちに寄り添うとは』~について

執筆者

今回の記事の作成は、本とびラボ企画の企画者、高橋さんです。

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高橋 淳
社会・援護局 障害保健福祉部 障害福祉課障害児・発達障害者支援室
発達障害者支援係

とびラボとは?

とびラボは、厚生労働省が実施する職員提案型研修・広報制度で、そこで学ぶ職員の姿をnoteや広報誌「厚生労働」で発信しています。
今回のとびラボ企画~『女性に寄り添う、いのちに寄り添うとは』~についても、「厚生労働」5月号に掲載(noteではこちらにて紹介)しておりますが、紙幅の都合で語れなかった企画者としての思い、企画を終えての感想を語りたい!と考え、本記事をお届けしています!

この企画で私が狙っていたこと

今回の企画を立案した私の思い-コロナ禍で、女性の生き方・働き方が個人の努力だけではどうにもならないという、社会の脆弱性が浮き彫りになるなかで、何が出来るか講師の話を聞きなら職員間で考えていきたいという思いーについては既に、前回の記事でご紹介済みですが、私がNPOきびるの野口さんを講師にお招きして、学びたい、考えたいと思ったポイントや、企画を通じて狙っていたことは細かくいうと以下の3点でした。

一つめは、「社会」の構造に関すること。
「女性活躍。子どもを大切に。」というメッセージは繰り返し掲げられているにも関わらず、今の社会は変わっていません。
特にコロナ禍では、職を失い、生活が立ちゆかなくなり、自死を選ぶ女性が増えました。また、臨時休校が相次ぎ、学校に行けないことで行き場を無くした子どもが増え、家庭に居る時間が増したことで、児童虐待が顕在化したと指摘されています。
女性を取り巻く状況が、個人の努力だけではどうしようもできない社会の脆弱さが浮き彫りになったのです。
この状況をどのように捉え、社会課題として解決をしていくのかということを、看護師や助産師として女性や子どもに寄り添い、社会課題のために事業を起こし、ご自身も2人の娘の母である野口さんに意見を聞きたかったということ。

二つめは、男性の意識に関すること。
男女共同参画社会基本法が施行して、すでに20年が経ちます。しかし、未だに男性の女性に対する社会的な目や、就労や育児に対する観念は大きく変化していないように思います。省庁でも男性の育児休暇が推奨されており、環境的に整備されつつありますが、まだまだ男性の理解が「男女共同参画の理念」に追いついていないと感じます。
このような社会的な状況を踏まえ、さまざまな立場を経験してきた野口さんから、女性として思うことや男性への要望などを聞くことができたら、男性の理解も進むのではとの思いに至ったということ。

三つめは、女性に対して情報を届けたいということ。
「とびラボ」企画は、noteや広報誌「厚生労働」に掲載していくことになります。これらのメディアを通して発信することで、女性の皆さんが、野口さんのような、女性の困りごとに向き合い、正しい知識を伝えてくれる人が居ると知り、そうした方々と繋がることができたら、女性の抱える「生きづらさ」が多少なりとも和らぐのではないかと思ったこと。
さらに、社会起業家である野口さんを通じて、「社会課題に対して起業という手段で声を上げる」人の姿勢を伝えることで、女性の背中を押す機会になればと思ったこと。

以上の3つの問題意識・狙いについて、野口さんだったら現場での経験を交えながら伝わりやすい言葉で語ってくれる!と確信し、「とびラボ」を通して提案しました。

*以下、講師紹介~講演内容紹介は前回記事と同内容です。

講師のご紹介【前回記事再掲】

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NPO法人きびる
代表理事 野口和恵さん

看護師や助産師の経験をもとに、女性特有の悩みや子育てに関する情報発信や相談、研修、講演を行っている野口和恵さん。活動を通して見えてくる、出産・育児の現場の課題を解説します。

出産・育児の現場は笑顔ばかりではない(講演)【前回記事再掲】

私は福岡県で生まれ育ち、現在は群馬県で活動をしています。これまで看護師や助産師として病院などで勤務し、出産や育児において女性がさまざまな悩みを抱えている姿を目の当たりにしてきました。

看護師として勤めていたとき、父を亡くし、職場である病院でも患者さんのさまざまな死に直面し、死とは真逆の「生」にかかわりたいと思い助産師になりました。出産の現場は、生まれてくる赤ちゃんや、待ち望んだ赤ちゃんと対面する母親やその周囲の人たちなど、笑顔と幸せであふれていると思っていました。

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写真提供:日本医療企画

しかし、実際はさまざまな出産があり、幸せなものばかりではありませんでした。死産に立ち会うこともあれば、これからの育児に不安でいっぱいの母親たちの暗い表情を見ることもありました。生まれたあとも病気や障害、発達の悩み、ネグレクトや虐待の問題など、多くの課題があることを痛感したのです。

不安や悩みを抱えるお母さんたちには、家の中でほかの人とかかわることなく過ごし、誰かに助けを求めることもできずに自分を責めてしまう人が大勢いました。
そんな女性たちを支えたい、そのためには病院の中からだけでは足りないと思い、訪問看護ステーションを開設し、その後さらに現在の情報発信・相談などを行うNPO法人きびるを立ち上げました。

病気や障害などで、医療的ケア児※のお母さんたちが、保育所に入ることもできない子どもと家にこもっている状況を何とかしたかったのです。今は、訪問看護ステーションを運営しつつ、医療的ケア児コーディネーターとしても活動しています。

※医療的ケア児:人工呼吸器や胃ろう等を使用し、たんの吸引などの医療的ケアが日常的に必要な子どもたち

「みんなが支えてくれるから大丈夫だ」と思える社会に(講演)【前回記事再掲】

多くのお母さんたちは、赤ちゃんは大切にする一方で、自分自身のことを蔑ろにしてしまっています。

「他人の命と同じくらい自分の命を大事にしてほしい」

私の活動の根幹にはそんな思いがあります。さまざまな家庭や子ども、母親を見るにつけ、今ある支援の周知と、よりいっそうの支援が必要だと強く感じています。
虐待の肯定はできませんが、虐待は誰もがしてしまう可能性があるものだと、現場を見ていて思います。失われる命が減るように、そしてお母さんたちが思いつめないようにしていかなければなりません。
特に今はコロナ禍で、立ち合い出産や長期の入院ができない状況になっています。
お母さんたちのなかには、「何が不安かわからないけれど、不安だ」と、涙を流して退院を拒む人も少なくありません。生まれたばかりの子どもとの生活を、「みんなが支えてくれるから大丈夫だ」と思える社会をつくっていかなければなりません。
私は、そのために必要な情報を発信しつつ、医療者として直接、現場の支援も続けていくつもりです。現状を知っていただくこと、一緒にお母さんたちを支えていく人を増やしていくことが、女性が子育てしやすい、子育てから復帰して働きやすい社会をつくっていく第一歩だと思います。

参加した職員の感想

講演実施後のアンケートからは、実際に子育てをしている厚労省内の職員から、野口さんからのメッセージに対して、このような共感の声が多く届きました。

「社会変容・行動変容につながる活動を展開されている志の方を応援できるような、失望させないような行政でありたい」
「母親の自己犠牲が美談として語られる風潮をいまだに感じる。女性が自分を犠牲にしなくても楽しく子育てできる社会が来れば子どももハッピーになれるのでは?」
「母親が母親自身を大切にすることが大切」という言葉が印象的でした」
「行政としての手の行き届かない人に向けての発信力に感動をした」
「疑問や違和感を起業という形で行動を示すことに感銘を受けた」

講演を企画した私が感じたこと

寄せられた感想から、参加者に企画の意図が伝わったことを実感し、企画者として嬉しく思います。
その一方で、男性の聴講者の割合が低く、感想をあげる人も少なかったということが、参加者数やアンケート結果の傾向から分かりました。女性に関する講演となると、どうしても同性の方の参加が多くなる傾向にあります。男性である私が企画することで、男性にも興味をもってもらえるかと思いましたが、参加に結びつかずに残念でした。

女性の参加者からは、
「男性にとっては、向こうの世界で女性たちがやっていることという認識があるのでは」という指摘があり、これは、男性の女性のコトに対する興味・関心の優先順位の低いことが示唆されます。

「出産・育児で女性がもつ心身的な負担を、男性が知ることで環境をよりよく変えていける」ということを、男性はもっと知る必要性があると私は感じていますが、まずは興味を持つこと、持ってもらえることが必要だと。そのことを痛感した企画でもありました。

今回のような機会をこれからもつくることで、日本の厚生労働行政の中心地から「女性に寄り添う、いのちに寄り添う」ことができるようになってきたら、少しずつ日本社会が変わっていくのではと思っています。

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