女性が働きやすく、子育てしやすい社会をめざして。女性に寄り添う、命に寄り添うことは
今年2月に行われた、「とびラボ企画~女性に寄り添う、命に寄り添うことは~」と題した勉強会。本勉強会に込めた企画委員の思いや勉強会の講演内容、そこでの職員の気づきを紹介します。
とびラボとは?
厚生労働省では、職員が今の担当分野にとらわれず、自分自身の関心で新しい出会いや学びを求めてチャレンジすることを応援する提案型研修・広報制度があり、通称「とびラボ」(とびだす“R”ラボ)と呼ばれています。これは、職員が関心のある政策分野に継続的にかかわることおよび厚生労働行政の政策分野における現場の支援者、当事者等と出会い、現場での実践に関する学びを深めることを支援することで、職員の厚生労働行政に関連する幅広い実践的な知識の習得および職務を行う意欲の向上を期待するものです。とびラボでは、職員が企画したこのような活動を発信しています。
企画提案者の思い:
コロナ禍で見えた社会の脆弱性個人の努力だけでは解決できない
髙橋 淳
社会・援護局 障害保健福祉部 障害福祉課 障害児・発達障害者支援室 発達障害者支援係
「女性が働きやすく、子育てもしやすい世の中にする」というメッセージは、常に発信されてきました。しかし、解決すべき課題は多くあります。
2020年の新型コロナウイルスの蔓延により、女性の生き方・働き方が個人の努力だけではどうにもならないという、社会の脆弱さが浮き彫りになりました。
そのなかで、看護師、助産師、経営者、母、そして女性と多様な立場を経験してきた野口様からお話を伺い、その場でディスカッションすることで、厚生労働行政に活かせる新たな知見や考え方が生まれるのではないかと企画しました。
【講演】
自分自身を大切にできるように出産や育児での女性のSOSに応える
看護師や助産師の経験をもとに、女性特有の悩みや子育てに関する情報発信や相談、研修、講演を行っている野口和恵さん。活動を通して見えてくる出産・育児の現場の課題を解説します。
野口和恵さん
NPO法人きびる代表理事
出産・育児の現場は笑顔ばかりではない
私は福岡県で生まれ育ち、現在は群馬県で活動をしています。これまで看護師や助産師として病院などで勤務し、出産や育児において女性がさまざまな悩みを抱えている姿を目の当たりにしてきました。
看護師として勤めていたとき、父を亡くし、職場である病院でも患者さんのさまざまな死に直面し、死とは真逆の「生」にかかわりたいと思い助産師になりました。出産の現場は、生まれてくる赤ちゃんや、待ち望んだ赤ちゃんと対面する母親やその周囲の人たちなど、笑顔と幸せであふれていると思っていました。
しかし、実際はさまざまな出産があり、幸せなものばかりではありませんでした。死産に立ち会うこともあれば、これからの育児に不安でいっぱいの母親たちの暗い表情を見ることもありました。生まれたあとも病気や障害、発達の悩み、ネグレクトや虐待の問題など、多くの課題があることを痛感したのです。
不安や悩みを抱えるお母さんたちには、家のなかでほかの人とかかわることなく過ごし、誰かに助けを求めることもできずに自分を責めてしまう人が大勢いました。そんな女性たちを支えたい、そのためには病院のなかからだけでは足りないと思い、訪問看護ステーションを開設し、その後さらに現在の情報発信・相談などを行うNPO法人きびるを立ち上げました。医療的ケア児※のお母さんたちが、保育所に入ることもできず子どもと家にこもっている状況を何とかしたかったのです。訪問看護ステーションを運営しつつ、医療的ケア児コーディネーターとしても活動しています。
「みんなが支えてくれるから大丈夫だ」と思える社会に
多くのお母さんたちは、赤ちゃんは大切にしつつも、自分自身のことを蔑ろにしてしまっています。他人の命と同じくらい自分の命を大事にしてほしい、私の活動の根幹にはそんな思いがあります。さまざまな家庭や子ども、母親を見るにつけ、今ある支援の周知と、よりいっそうの支援が必要だと強く感じています。
虐待の肯定はできませんが、虐待は誰もがしてしまう可能性があるものだと、現場を見ていて思います。失われる命が減るように、そしてお母さんたちが思いつめないようにしていかなければなりません。
特に今はコロナ禍で、立ち合い出産や長期の入院ができない状況になっています。お母さんたちのなかには、「何が不安かわからないけれど、不安だ」と、涙を流して退院を拒む人も少なくありません。生まれたばかりの子どもとの生活を、「みんなが支えてくれるから大丈夫だ」と思える社会をつくっていかなければなりません。
私は、そのために必要な情報を発信しつつ、医療者として直接、現場の支援も続けていくつもりです。現状を知っていただくこと、一緒にお母さんたちを支えていく人を増やしていくことが、女性が子育てしやすい、子育てから復帰して働きやすい社会をつくっていく第一歩だと思います。
【ワークショップ + 振り返り】
私たちにできること。講演を聞いて思うこと
第二部で行われた、講演を聞いて気づいた課題やその解決策、政策や日々の取り組みに活かせそうなことについてのディスカッションの様子をお伝えします。
出典:広報誌『厚生労働』2022年5月号
発行・発売:(株)日本医療企画
編集協力:厚生労働省
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