年代別にやるべき予防とお口のケアを紹介。歯と口の健康が生活の質を爆上げする
「自分の好きなものを食べる」「家族や友達と会話を楽しむ」――。歯と口の健康は、全身の症状・疾患や要支援・要介護度などにかかわり、健康長寿を実現するうえで欠かせない生活の質を大きく上げるものです。本特集では、年代別の歯・口の健康に関する問題や国の対策、歯・口の健康と生活の質との関連性、口腔ケアの重要性、歯を守るための予防方法などを紹介します。
歯科口腔保健分野の国の支援策
全世代の歯と口の健康を守る
「世代別の歯・口の健康問題」を解決するための国の取り組みについて、担当者が解説します。また、歯科健診(検診)やかかりつけ歯科医の重要性にもフォーカスします。
歯が残っているからこその問題も浮き彫りに
2011年に「歯科口腔保健の推進に関する法律」が制定され、それまでの歯科医療の提供だけでなく、予防や、生活の質を維持・向上するための健康づくりの視点からも取り組んでいこうという流れができました。この法律をもとに「歯科口腔保健の推進に関する基本的事項」が策定され、19項目の目標値を設定、現状の把握と評価を行ってきました。
19項目は乳幼児期から高齢期までを対象にしたものになっています。たとえば「3歳児でう蝕のない者の割合の増加」「12歳児でう蝕のない者の割合の増加」「40歳で喪失歯のない者の割合の増加」「60歳代の咀嚼良好者の割合の増加」などです。
そして現在、法律ができて10年経ち、この基本的事項の最終評価をしているところです(図表1)。中間評価や最終評価の数値を見てみると、むし歯(う蝕)関連の項目が改善する一方で、歯周病関連の項目が悪化していました。高齢になっても自分の歯が多く残っている人が増えてきており、歯が残っているからこその問題も浮き彫りになってきました。
コロナ禍で評価ができなかった項目もありましたが、今後は最終評価をもとに、新たな項目と目標値を検討していく予定です。
口腔機能の維持・向上を図ることが課題
前述したように、8020(ハチマル・ニイマル=80歳になっても自分の歯を20本以上保とうという取り組み)の達成者は増加し、現在、全体の半数を超えている状況です。
しかし、高齢期には、噛みにくいと感じる方がとても増える一方で、歯科に通えない方が多くなる、というデータがあります。その原因は一概にはいえませんが、高齢になり外出が難しくなってしまったり、さまざまな病気を抱えている方が増え、歯科治療の優先順位が下がってしまう、入院などを機に途切れてしまう、といったこともあるかと思います。
そうした状況だからこそ、栄養の管理は大切であり、そのためにも自分のお口から食事をとることが重要になります。そのためにも、口腔機能の維持・向上が重要であり、そのことを歯科専門職だけではなく、患者さんご自身やご家族、患者さんに関わるさまざまな職種の方に知っていただきたいと思います。
また、高齢者だけではなく、小児期においても口腔機能は重要です。小児期では、口腔周囲の筋力の獲得が十分にできないことによって、食べる機能や発音などに影響が出ることがあります。
お子さんであれば、食べるのに時間がかかるとか飲み込み方が気になる、高齢者の方であれば、口の中が乾くようになったとかむせやすくなったなど、お口のことで気になることがあれば、歯科健診や歯科受診の場などを活用して、歯科医師や歯科衛生士にぜひご相談いただければと思います。
歯やお口の健康は、元気なときには当たり前すぎて、その重要性に気づきにくいですが、高齢期になっても元気に過ごすために、早い時期から歯やお口の健康に関心をもち、歯科疾患の予防に取り組んでいただきたいと考えています。
口から食べる、人とお話をしてコミュニケーションをとるなど、生活の質に大きく影響する歯やお口の健康を保つことが、人生100年時代に質の高い生活を送るための秘訣です。
【取り組み1】
歯科健診と予防歯科
自治体などでは乳幼児期から高齢期までさまざまな世代を対象に歯科健診を行っており、また、多くの歯科医院では疾患の早期発見・治療につなげる予防に力を入れています。
効率的・効果的な受診勧奨を検討
歯と口の健康は、全身の健康を保つためにとても重要です。そのため、歯科疾患の予防や早期発見・治療を進めるために生涯を通じた歯科健診の充実を図ることが大切です。
日本における歯科健診の体制では、1歳6か月児と3歳児を対象とした「乳幼児歯科健診」、幼稚園・小学校・中学校・高等学校などで毎年行う「学校歯科健診」、塩酸・硫酸・硝酸などを取り扱う労働者を対象とした「歯科特殊健診」の3つが義務づけられています。そのほか、歯周疾患検診や後期高齢者医療の被保険者に対する歯科健診、妊産婦や障害者・児を対象とした健診などが自治体により行われています(図表2)。
乳幼児期は、生後約半年から乳歯が生え始めることを踏まえて、早い段階からお口の状況を把握します。
学齢期では、顎顔面の成長発育が進む大事な時期であり、また永久歯が生え始める時期でもあるため、初期のむし歯の早期発見・治療につなげます。
高齢期では、歯や口の健康を保つことが食べる(栄養をとる)・話す(コミュニケーションをとる)に直結し、健康長寿の実現には欠かせません。また、残存する歯を健康に保つためや、口腔機能の維持・向上のため、歯科健診を含めた歯科医院受診や訪問による定期的なお口のチェックを推奨しています。
健診の実施状況は自治体によってさまざまですが、特定健診とあわせた歯科健診を実施しているところもあります。厚生労働省では、「8020運動・口腔保健推進事業」により、地域住民の口腔保健対策を推進する観点から、自治体が実施するフッ化物応用や歯科健診・歯科保健指導など「歯科疾患予防」の取り組みに対して財政支援も行っています。
すべてのライフステージにおいて、歯と口の健康は、生活の質を高めることに大きく寄与します。最近歯科医院に行っていない方は、ぜひ歯医者さんにお口の健康チェックをしてもらいましょう。
【取り組み2】
かかりつけ歯科医の重要性
生涯を通じて、継続的に適切な治療や口腔の健康管理を行い、相談に応じてくれるのが「かかりつけ歯科医」。歯と口の健康を守るうえで重要な存在です。
切れ目なくサービスを提供し治療・相談に応じる
2017年の「歯科保健医療ビジョン」では、高齢化の進展や歯科保健医療の需要の変化を踏まえ、めざすべき歯科保健医療の提供体制について提言しています。そこでは「地域完結型歯科保健医療の提供」が掲げられており、かかりつけ歯科医の担う役割・機能についても示しています。かかりつけ歯科医は、患者が求めるニーズにきめ細かく対応し、安全・安心な歯科保健医療サービスを提供できる存在です。
具体的には、かかりつけ歯科医の機能の一つが、「住民・患者ニーズへのきめ細やかな対応」で、歯科疾患の予防や重症化予防、口腔機能に着目した歯科医療の提供はもちろん、医療安全体制などの情報提供、地域保健活動への参画、住民への健康教育や歯科健診の実施などです。
二つ目が「切れ目のない提供体制の確保」で、外来診療に加えて訪問歯科診療提供体制の確保ということです。自院が訪問歯科診療を提供していない場合には、実施している歯科医療機関との連携体制を構築するなど役割分担をします。
三つ目が「他職種との連携」です。医師などの医療関係職種や介護関連職種などと口腔内の状況の情報を共有できる連携体制を確保し、食支援などの日常生活の支援を目的とした他職種連携の場にも参画します。
加えて、口腔機能(食べる機能)の維持・回復・向上によるQOL(生活の質)の向上や健康寿命の延伸に向けた予防・健康づくりへの寄与も求められています。また、歯科医療においても、さまざまな専門分野があることから、歯科医療における専門医を受診するうえでのゲートキーパーとしてもかかりつけ歯科医は重要です。
このように、かかりつけ歯科医の役割は多岐にわたります。ライフステージに応じて、日頃の治療や健診の受診だけでなく、不安や疑問が生じた際に気軽に聞ける身近な専門家として「かかりつけ歯科医」を持っておくことは、重要だといえます。
出典:広報誌『厚生労働』2022年6月号
発行・発売:(株)日本医療企画
編集協力:厚生労働省
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